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+・:*。浅葱色の想い。*:・+

小説「浅葱色の想い」は普通の中学生、kano,が大好きな幕末日本、新選組の小説を書くブログです。

春信[3]

「気味の悪い客が来たもんだ、まったく。」

本当に気味が悪い。見窄らしい大名行列のような怪しげな集団で宿場町が、

溢れかえっているのだから。そのうち、

「八千代、夏那、いるのだろう。ちょいと来てくれないか?お客様を表に出てお迎えするんだ。」

と店の主人が彼女達を呼んだ。

二人は慌てて、階段を駆け降りた。めずらしく旅籠屋の人々が集まっていた。

「よくお越し下さいました。ささ、お疲れの事でしょう、中へお入り下さいませ。」

主人とその女将を中心として、挨拶した。

口では上手なことを言って旅人の気に触らぬようにいかにも歓迎しているような口調で言うが、

実は誰も「よくお越し下さいました。」なんぞ思っていない。

あっという間に日は暮れようとしていた。

あの見窄らしい集団がこの旅籠に三十人程、泊まることになった。

夏は女将から今夜はその客の相手を手伝えと言われたので、準備していた。

酒宴のときはいつも、母からもらった浅葱の着物を身に纏う。

そこへ白地に銀の模様が入った帯を締めた。

「どうもお待たせいたしました。夏那でございます。」

名を名乗り、座敷へ入った。

客を間近で見ると浪人の様な格好の者や、町人の様な格好の者で色々だ。

客の大半の者の着物の襟は垢が染み、袴の襞が付いていない。という何とも汚い者達だ。

「おい女、こっちへ来て酌をしろ、」

一人の男が手招きをしたので夏はそそくさと客の所へと足を進めた。

「お疲れでしょう。さぁ、どんどん飲んでお躰をお休め下さいませ。」

この夏の言葉には魂胆が有った。店の主人から直に女達へ話があった。

どうやら今日の客たちは江戸で結成された浪士組であり

尽忠報国の士の集まりだか何だか知らないが、

治安の悪い京を立て直そうと、京にむかっている者達らしい。

だが、これまで江戸から旅をしてきた途中で、何度も騒ぎを起こしていて、

浪士組が泊まった宿場はかなり手を焼いたという。

そんな厄介な浪士組に今晩も騒ぎを起こされては困るので、

あの手この手で客を早く眠らせる策であった。

早々と床に招く女もいれば、夏のように酒をガンガン起き上がれぬ程飲ませる女もいた。

「芹沢鴨」という男は本庄の宿で諍いを起こし怒って、道に木を積み上げ火を付けた。

この燃え上がる火は十二里もはなれた、松井田の宿からも見えたという話だ。

騒ぎを起こされぬよう、浪士組がこの宿場町へ入ったときに、旅籠一帯で決めた約束事らしい。


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春信[2]

女達の朝は遅い。旅屋なので、朝早く出かける客を見届け、多くの女はまた床に入り寝てしまう。

それからひと寝した女は朝四つ頃にぞくぞくと起きて朝飯を食べた。

でも夏は夜遅くまで働く事は、無いに等しい。

だから明け六つには起き、日が出るのを毎日自室から眺めながら仙台の家族へ送る着物や、

自分で着る着物を仕立てていたりする。

それから朝飯を作る手伝いをして朝飯を早々食べ、化粧をする。

どうにも化粧だけは慣れなくて、そうこうしていると他の女も飯を食べ、支度し終わっている。

風呂は時間のあいた時を見計らって、好きに入っている。

その後は、女達と数人で宿屋の表に出て、通りかかる旅人を引き込むのだ。

旅人に声をかけたり、色目を時には使い、如何にかして旅人をつかまえる。

夏も交代で表に出るのだが、今日は表に出る気になれなかった。

女達がまるで旅人の足並みを乱すかのような甚だしい大声で呼び止めている。

旅人は笑うか赤面するかして、急いで通りすぎてゆく。これではてんで駄目だ。

思わず夏も噴いてしまう。ただでさえ、午前中から宿を決めて泊まる客などいないのに。

せいぜい観光に来た者か、団体だけだろう。

そんな光景を見ながらつい、うとうとして眠ってしまった。

「夏那ちゃん、起きて。」と言う女の声でやっと目が覚めた。

この宿屋の中で、一番年少なので、何かと気を使ってくれるのだ。

「すみません、ついうとうとしてしまって。」

「ええ、大丈夫よ。それより変な客が来たんだ。それも大人数、

 ほかの旅籠に別れて泊まるとかなんだが、どうやらここにも泊まるらしい。
 
 ほら、外をみてごらんよ。」

いつも夏の事を誰よりもかまってくれて、妹のように可愛がってくれる八千代が言う。

夏は外を見た。宿屋の表どころか宿場一帯を埋めつくすかのような賑わしい様子だ。

百なんかゆうに超えているだろう。大名行列かとも思ったくらいだ。

しかし、旅人の格好をみると見窄らしく、あまり良い印象ではなかった。


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春信[1]

月日が経った。文久三年のことだった。

夏が仙台を出て三ヶ月程、経っただろうか。

彼女は中山道の宿場で飯盛女をやっている。

『飯盛女』とは表向きは宿屋で女中という事なのだが兼ねて私娼もしていた。

しかし、そんな女達が溢れてしまうと困るので、

幕府は私娼をする女の数を宿屋ごとに制限したが、特に効果は無かったらしい。

仙台を旅立った夏は、厳しい現実に当たるのだった。

女子の身で働く所なんて何処にも無い事を知る。

仕方無く、飯盛女として雇ってもらっている。

しかしまだ十四なので、夏は客をとっていない。

辛うじて、客の酒席へ出て、酒を注いでやる位だった。

それだけが仕事なので金は溜まる事無く、仙台には纏まった金が送れないでいた。

ようやくこちらの気候にも慣れてきて、自然と仙台弁でしゃべらなくなった。

「夏那ちゃん、ちょっとこっちで手伝って。お客さんに酌してあげて、」

「はい、今行きます。」

『夏那』とは夏のことだ。宿屋で働く時に名を改めた。

つまり夏の源氏名ということになる。

「失礼いたします。」

「おう、来たか、女、名はなんと申す。」

「夏那にございます。」

「さぁ酌をしろ。夏那も飲め、さぁ。」

「私は酒が得意ではないので一杯のみの盃だけにさせていただきます。」

なにしろ十四だ。飲みすぎると体に毒なので一杯だけと決めていた。

遠慮して一杯も飲まないとなると変に思う客もいるから仕方なく飲むのだった。

「お前はいくつだ。」とよく客は聞く。

「いくつにみえますか、」と逆に聞き返してやると客は追求はしてこない。

年相応の顔だちに身丈の夏なのだが、このような宿屋で働くには若く、

どんなに濃く白粉を塗ったって、紅を塗ったって、襟を抜いたって、あどけなさが目に付くらしい。

そんな夏が気に入り、

「今晩どうだ?」といってくる客もいたが主人から断って来た。



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世も末[5]

その日は、雲一つ無い青空だった。

「父ちゃん、じゃあおら行って来るからな。」

「そうか。気をつけてな、」

「ああ。父ちゃんこそ。」

父は病所から動くことができない。なので父とは家の中で別れた。

「夏、気をつけてな。嫌になったら戻ってきてもえがすんだからね。」
(夏、気をつけてね。嫌になったら戻ってきても良いんだからね。)

「うん。」

「姉ちゃん、元気でね。」

「姉ちゃん、風邪ひかないようにね。」

「わかってる。祥、祥は姉ちゃんが居なくなったら、おらいで一番のガキコになる。
(わかってる。祥、祥は姉ちゃんが居なくなったら、私の家で一番の女の子になる。

姉ちゃんの代わっちゃりにあがびこの面倒を見てやってな。」
姉ちゃんの代わりに赤ちゃんの面倒を見てあげてね。)

「うん、わかったよ、おらが面倒見る。」

「嶺、嶺は祥とががの手伝いをしてあげてくなえん。嶺の助けが必要なんだからね。」
(嶺、嶺は祥とお母さんの手伝いをしてあげて頂戴。嶺の助けが必要なんだからね。)

「うん。おらがんばる!」

「じゃあおら行ってくるね。」

「気をつけてな、」

母と妹に別れを告げ、仙台道へと向かった。

「仙台道」とは今でこそその名で知られているが、

当時はその名で呼ばれていたかは分からない。

仙台道は幕府の管轄の奥州街道につながる道で人々に親しまれてきた道の一つだ。

夏は歩いたとうに自分の村を出て隣の村へと差し掛かったところだった。

「夏、おらだ。」

「留吉っつあん!?」

「そうだっちゃ。ずっと後ろについてきたんだ。」

「どうして。」

「夏の顔が見たくって。」

「嫌だっちゃう、そんなことまた言って。」
(いやだよう、そんなことまた言って。)

夏と留吉は互いに通じ合っていた。でも夏から村を出ることで想いを断ち切っていた。

「おらは本当におめが好きなんだ。ただそいづだけ言いに来たんだ。」

「おらだって留吉っつあんの事好きだ、でもおらは決めたんだ。
(私だって留吉さんの事好きだ、でも私は決めたんだ。

んだから行かせてくなえん。
だから行かせて頂戴。)

「何も行かせねぇとは言ってね、おめにわりぃ虫が付くのが嫌なんだっちゃ、」

留吉は夏を抱き寄せ抱擁する。

「おめが愛しくてたまんね、」

夏の顔は赤く染まる。羞恥心と喜びで。

「わりぃ虫にちょすられちゃもぞいだべ。気を付けてなぁ、
(悪い虫にいじられたら可哀想(けなげ)だから。気を付けてな。

おめはめんこい女子だから。」
お前は可愛い女の子だから。)

「保障はできね、何が有るかわからねえから。行かせてくなえん、
(保障はできない、何が起こるかわからないから。行かせて頂戴、

ちゃっちゃど行くから。おらもとぜんなるだけだ。」
さっさと行くから。私も寂しくなるだけだから。)

夏は走った。留吉は追っては来なかった。

留吉の姿が見えなくなった所で止まり、息をついた。

雲一つ無い青空が朧げ見えた。

母からもらった浅葱の着物、妹の嶺が作った藁沓とを持ち、

少女夏は一人孤独な旅へと出た。

十三といえども現行の年齢では十一や十二歳である。



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清河香乃(kano,)

Author:清河香乃(kano,)



浅葱色の想いを執筆するのは
ワタクシ清河香乃でございます。
一応十四、数えで十五です。
歳に似合わず幕末日本大好きです。
私のことを知りたいと思ってくれた貴方。

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古めかしい物が大好きです。
最近【陰陽座】というバンドにお熱です。


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